前編
(みどころ)
97年、『青い鳥』で、人はどんな罪を犯しても再生できるというテーマで男と女の逃避行を描き、98年、『眠れる森』ではその逆のテーマで若い世代にラブミステリーという新しいジャンルのドラマを確立させ、99年、『氷の世界』でお金と人の命とを秤にかける社会現象を切り取るドラマを登場させて、爆発的人気を誇った脚本化・野沢尚が、新たに書き下ろした異色の青春小説『反乱のボヤージュ』。テレビ朝日では、この話題作をドラマ化、2夜連続で放送する。
20世紀と21世紀のジェネレーションギャップを考えた時に我々が思い起こすのは、60年代後半から70年代始めに燃え盛った学生運動の炎であり、東大安田講堂攻防や日航機ハイジャック、浅間山荘事件など、国家と若者たちの激しい対立に関連して起こった数々の事件である。
当時の若い世代は何に怒り、何を糧に生きようとしていたのだろうか?そこには旧秩序打破を主張する声と、体制を守って行こうという声の激しいぶつかり合いがあった。この両者の活動を手足となって支えていたのは、共に等しく当時の日本の若者たちだった。
あれから30余年、豊かになった大国日本で、現在の若者は本物の自由を謳歌しているのだろうか。確実に言えるのは、今の若者は吼えることをしなくなったことだ。あたかも怒ることを放棄してしまったように…。
若者は社会に飼い慣らされてしまったのだろうか? そんなはずはない。大人に対する小さな不平不満や社会の不条理は感じているはずなのに、自分の中で大人になろうと、そのエネルギーを必死に押し殺しているのではないか?
少年犯罪が社会病理になっている。激しい暴力シーンを見ようと若者がR指定の映画に殺到している。若者は“怒り”のエネルギーを違う方向に発散し始めた。あるいは一個人の問題として矮小化し始めた。そんな現代の若者の中に、本来向けるべき“怒り”の対象を示唆し、戦い方を教える70年代の生き残りの男が紛れ込んできたら!? このドラマは、ある大学の廃寮化運動をステージに、70年代の影を背負い続けてきた男と、無自覚な学生たちの反乱を描きながら、自分の存在と未来を探索していこうとする、青春群像劇である。
さらに原作・脚本の野沢尚は、このドラマを「父親探しの物語であり、子供探しの物語だ」と語っている。
父権というものが死語にすら感じられる現代、実は父も子も、お互いその実像を求めているのではないだろうか? 現代の若者は、激しく大人に反発しながらも、強く優しい大人を求めているのではないだろうか? そして大人もまた、若者たちに恐れおののきながらも、かつて日本に存在した真に怒れる若者を求めているのではないだろうか? このドラマは、時代差からくるギャップをときにコミカルに描きながら、2001年のそれぞれの自分探しの“心の旅”を、ダイナミックに描き出していく。
(あらすじ)
2001年9月。長い歴史を誇る首都大学弦巻寮は、存亡の危機に晒されていた。学校側の廃寮キャンペーンが日ごとに激しさを増してきたのだ。
65年前、当時としては珍しい鉄筋コンクリートで建てられ、120名は収容できる立派な建物だったこの寮も、今では老朽化が進んで、現在は寮生も50人を切っていた。大学側は、これを取り壊して新しい施設を作り、同時に寮の運営を大学側に取り戻そうと画策している。いまどきの大学生は寮に住むことに、さほど、執着しているわけでもなく、廃寮に反対しているのは医学部1年生の坂下薫平(岡田准−)を含む寮生の一部に過ぎない。
医学部のクラスメイトからは変わり者と見られている薫平は、このいまにも崩れそうな寮に住み、毎日、賄いの菊さん(麻生祐未)が作ってくれる昼食を摂りに戻る。菊さんはくわえタバコに競馬新聞を離さない口の悪い女だが、料理はうまい。同じ寮生の茂庭章吾(浜田学)は、この菊さんに惚れているらしい。
廃寮反対の先頭に立つ自冶委員長・司馬英雄(八嶋智人)は、副委員長の本多真純(山口紗弥加)と、ビラ作りに余念がない。いまいち頼りにならない司馬は、いつも真純の尻に敷かれている。
江蕎麦太(堺雅人)と葛山天(横山裕)は、フエロモン系女子寮生・田北奈生子(新山千春)の尻ばかり追い回している。
コンピュータが恋人の安東清起(西岡竜一朗)の部屋では、アルバイトにAVモデルのスカウトをしている手島修一(青木堅治)がインターネット上の女の子を物色中。
ホントに変なヤツしかこの寮には住んでいない。これで寮の自治など守れるのかと、自分を棚に上げて薫平は思う。まるで切実さがないのだ。
大学側との団体交渉ではいつも平行線をたどる。この問題の大学側の責任者は、学長補佐の宅間玲−(津川雅彦)。中々油断のならない老獪な策士だ。
学校側は「国有財産である弦巻寮の不法占拠」と寮生を責め、寮生は「学校当局による国有財産の私物化」と反撃する。ところが、今回の団交は少し様子が追っていた。宅間がある提案を出してきたのだ。寮の存続を認める代わりに、大学側も寮の自治に参加したい。
ついては大学側が用意する寮の管理人・舎監を寮内に住まわせることで、大学側の意見も反映させてもらいたいというのだ。大学側の意見といっても、舎監一人、つまり一票しか権利がないと宅間は言う。数の上では学生側が圧倒的に有利だ。学生達は、なんとなくこの提案を飲んでしまう。
数日後、名倉憲太朗(渡哲也)という舎監がやってきた。社儀正しく物静かだが、全身に研ぎ澄まされた鋭さが潜んでいて、学生は気圧されてしまう。
名倉は、一冊の古びた冊子を手にしていた。それは、薫平たちのはるか先輩が学校側と交わした寮則で、寮の門限は12時、寮生の中から一人でも留年者を出したら寮の自治権は剥奪するなど、とんでもないことが決められてあった。名倉は、この寮則を守れというのだ。学生達は、安易に舎監を受け入れたことを後悔するが、もはや手遅れだった。
そんな中、事件が起こった。立花(宮造博之)という町金融の男が薫平を訪ねて来たのだ。薫平の父親が今大変な借金苦に喘いでいるので、代りに返済しろと立花は言う。会社を経営していた薫平の父親はバブルの絶頂期に母親と離婚し、若い女と再婚した。薫平が小学1年の時のことだった。以来、母親に育てられた薫平だが、母は病死し、法律的には身寄りがいない身だった。現在薫平は、母の保険金と父がかつて残していった慰謝料とで、1千万円ほどの預金を持っていた。
そんな薫平が部屋代7千円の寮に住んでいるのは、将来への漠たる不安からだった。誰も頼るものがいなければ、今ある金を長持ちさせなくてはいけない。薫平はそう考えていた。しかし、両親の離婚以来、一度も会っていない父とはいえ、会社が倒産し悲惨な目に遭っている父を放っておけるだろうか。立花は、なんとか薫平から金を引き出そうと、脅かしたりすかしたりする。
二人の近くで、名倉がこのやり取りを逐一聞いていた。
3日後、再び現れた立花を、名倉は叩きのめしてしまう。一瞬のうちに暴力の鬼と化した名倉を、薫平は呆然と見詰めていた。
立花が逃げ帰ったあと、薫平は名倉に父の思い出を語った。いつしか薫平は涙を流していた。そしてその時薫平は名倉に、父の面影を重ねていた。薫平の話を黙って聞いていた名倉は、最後にぽつりと呟いた。「父親を早く捨てなさい」と。しかし薫平は捨てられなかった。銀行の通帳と印鑑を父親に郵送したのだった。
やがて、自治委員会が名倉の正体を突き止めた。かつて警視庁の機動隊に所属し、学園紛争吹き荒れた70年代に、ジュラルミンの盾と警棒で学生たちを制圧した男の―人だったのだ。そんな男を大学側は送り込んで来たのだ。まさに名倉は、骨の髄から体制側の人間だった。その昔全共闘のバリバリの闘士だった父親に育てられた江藤麦太などは、名倉に激しく反発する。
だが、薫平には分からない。名倉は本当に自分たち学生の敵なのか? 名倉の出現によって、寮の自治権は奪われてしまうのか?学校側の思惑通り、寮は取り壊されてしまうのか? 我々の廃寮反対運動は、筋金入りの体制派人間一人によって脆くも敗れ去ってしまうのか? 薫平の胸に数々の不安がよぎる。
後編
(みどころ)
首都大学弦巻寮の廃寮問題をめぐって医学部の1年生・・ ・ 坂下薫平(岡田准−)ら寮生と、学校側が舎監として送り込んできた元機動隊員の名倉憲太朗(渡哲也)との相互不信と感情的対立、薫平の父親の借金問題やストーカーの影に怯える寮生・田北奈生子(新山千春
)に対する名倉の決然たる態度。そして名倉の中に父の面影を見出し、心が揺れる薫平。名倉を尖兵とする学校側と寮生たちそれぞれの思惑を秘めながら、ドラマは後半のハイライト、弦巻寮攻防を迎える。
そして、この後編に意外な俳優が登場する。それは、「渡(哲也)社長と一緒にもう一度、芝居がしたくて」の一念で、異例のノーギャラ&エキストラ出演を果たした舘ひろし。
舘が出演するのは、渡ふんする名倉の回想シーン。30年前、名倉が機動隊にいた頃の一場面で、学生たちと衝突する機動隊員のひとりを演じるのだが、なんとわずか2カット・計10〜20秒ほどのエキストラ出演。
「このところ自分が俳優としてヤワになっているんじゃないかという気がして、社長とまた一緒に仕事ができたら、ピシッと背中にまっすく筋が入るのではという思いがあり、社長に内緒で(石原プロモーションの)小林専務に出演をお願いしたんです」と、舘自らノ−ギャラ出演を志願したという。
2人の共演は「愛しの刑事」(92年、テレビ朝日)以来、約9年ぶり。“社長の芝居を間近に見て、自分を立て直してみたい”という舘の“志”をあとから聞かされた渡は「あんまりオレを泣かせるなよ!」と、大感激!!
「ドラマの中ではほんの一部分ですが、とても大事なシーン。その場面に、天下のひろしが通行人のように目立たず、しかもセリフのない役で出てくれると聞いて、胸にこたえました。身内だからあんまり言わないけど、ひろしは日本人離れした、数少ないカッコイイ俳優だと思う。そんなひろしの思いにこたえなきやという気持ちをいま、ひしひしと感じています。…ホントに泣かせる男だよ、この男は!」と、撮影現場に現われた舘を見て、目を細めていた。
(あらすじ)
存亡の危機に瀕する首都大学弦巻寮で、またしても問題が持ちあがった。左翼系の大学サークル『学生問題研究会』のメンバー二人が襲われて重傷を負うという事件が発生、服に返り血がついた学生が深夜校門をくぐって行ったとの目撃証言があったのだ。警察は弦巻寮の学生を疑い、学長補佐の宅間(津川雅彦)ら学校側は、元機動隊員の舎監・名倉(渡哲也)に調査を委ねる。
江藤麦太(堺雅人)は、突然名倉から「事件のあった夜、どこで何をしていたのか」と詰問され、言葉を失う。名倉は、それまでの数日間、麦太が門限の12時ぎりぎりに寮に帰って来ていたと指摘する。
実は麦太は、ストーカー事件のショックで自宅に戻っている寮生・田北奈生子(新山千春)の身を案じ、近くで見守っていてあげたいと、夜な夜な彼女の家の周囲をうろついていたのだ。だが、それを証明する人物はいない。
『学生問題研究会』が半年前に発行した機関誌に、七十年代の学生運動に身を投じ、未だにその残影から抜けられない麦太の父を揶揄する記事が掲載されていた。宅間はそれを根拠に、麦太が父の無念を思って犯行に及んだのだと断定する。
宅間とともに麦太を厳しく追及する名倉に、寮生たちは非難の声を浴びせる。名倉は彼なりの方法で自分たちを理解してくれていると思い込んでいた薫平の心も揺れる。
宅聞か席を外した後も名倉と麦太の二人だけの話し合いは続き、名倉がどんな結論を出すのか薫平は気が気ではない。
やがて、麦太が名倉から解放されて戻ってきた。麦太によると名倉は最後に一言「あなたを信じましょう」と言ってくれたという。この言葉に、薫平は救われた思いだった。
翌日、奈生子の母親が、担当教授に渡してほしいと、児童心理学のレポートを持参する。奈生子はこの単位を落すと留年してしまう。
そうなると、一人でも留年者を出した場合、寮の自治権を剥奪するという寮の規約に該当してしまうのだ。奈生子のレポートを受け取った本多真純(山口紗弥加)は、池井戸教授(藤田宗久)に提出し確かに渡しましたよと念押しする。
その夜、麦太の進退に関して寮生の全体会議が開かれた。会議では、自分が無実なら堂々と警察に出頭して申し開きをするべきだという意見が大勢を占める。だが薫平には、それは麦太を見捨てるように思われ、思わず非難の声を上げてしまう。普段は何事にも傍観者的視線を保っていた薫平が、突如自己の考えを主張したため、寮生たちは驚き、薫平自身もこの心の変化に戸惑う。また名倉も警察の取り調べの厳しさを指摘する。寮生たちは、名倉が何を考えてそんな発言をしたのか、腹の底を探ろうとするが、彼の真意はまったく掴めない。
やがて刑事たちが弦巻寮に現れ麦太に任意同行を求めるが、麦太はこれを拒否し、名倉も麦太を庇って警察と対立する。
そんな中、宅間と名倉の関係が明らかになる。名倉は宅間の妹・加寿子(いしだあゆみ)と結婚していたのだ。まだ名倉が警察官時代、加寿子は病に倒れ、名倉は妻の看病に専念するために警察を辞めていたのだ。その後、妻を亡くし失意の名倉を、義兄である宅間が
舎監という職に就かせたのだった。
だが麦太の一件で、宅間と名倉は決定的に対立し、ついには弦巻寮を巡る学校側と名倉・寮生側の攻防へと突き進んで行く。 |